ノンプレスフィニッシャーの開発に至るまで

「打越圭介のクリーニング紀行」2021年10月10日掲載分より内容の一部を改訂しています。


まずはいつもの投稿予定日より1週間遅れてしまったことをお詫びしたい。少しは業界も動くだろうと思っていたのだが、思った以上に動かない。ネタがなくて正直困る。

緊急事態宣言がようやっと解除となり、10月1日から人々は仕事帰りに居酒屋やレストランに殺到した。ニュースでも取り上げられていたが、人々の居酒屋で楽しむ様子が映っていた。多くの人々の笑顔が報告され、お店もこの状況から一安心と言うところだろうか?やはりクリーニング業は外出する人々が増えない限り栄えることのない商売である。いくつかのクリーニング店に9月の状況を聞いてみると「8月よりも厳しい」と肩を落としていた。一部の飲食店では政府の方針に従わず、酒類を提供していたが基本的にほぼすべての飲食店が方針に従っていたと思う。故に9月下旬には感染者数、重傷者数など主要な数字が大きな成果として表れていた。東京が大阪よりも少ないのもびっくりだが、100人台という数字を聞くと「随分と少なくなったものだ」と感じてしまう。

今回は市場の動きを紹介するネタがないので我が社の現在開発しているモデルをここで少々紹介したい。今回、開発中の製品はトンネルタイプの仕上げ機、名付けてノンプレスフィニッシャーである。三幸社でこのようなトンネルタイプを作るのは初めてだが、これはドライクリーニング用ではなくランドリー用である。ここしばらくの間、私のこのブログでは日本のドライクリーニング需要減少の話しをしているが、ここで改めて申し上げるとクリーニング店が自社のそれまでのビジネスモデルを変えていかない限り残っていくのは難しいだろう。しかし、変えようにもメーカーが一緒になって考えない限り難しいのも事実である。

それから我々はこのタイプをトンネル仕上げ機ではなくノンプレスフィニッシャーと呼ぶようにしている。皆さんは既にトンネル仕上げ機とはどんなモノか?を想像できると思う。しかしこの機械は形は似ていてもコンセプトが違う。手直しの必要のない仕上がり風合い、そしてその生産性の高さを目指して敢えて機械の呼称も「ノンプレスフィニッシャー」とする。ノンプレスという言葉をこれからの流行にさせていくことでランドリーのイメージを変えて行きたいとさえ思う。

さて、私は兼ねてからシャツ類の取り込みを提唱し続けてきたが、お恥ずかしい話し、どのようにシステムを組んでいけば良いのか、がわからなかった。私が音頭を取っているメーカーの業界研究グループ・PTBプロジェクトでは10年前からポロシャツ、Tシャツ、ブラウスなどのシャツ類を需要喚起の品目に加えられるように、と研究を続けてきた。その研究に従って我が社ではMF-300Jというブラウス仕上げ機を開発した経緯がある。しかし、その機械では原価低減には至らず、企画倒れになってしまった。できなかった理由はブラウスの濡れがけは乾くのに時間がかかってしまい、結果として30枚/時間さえも仕上がらなかった。しかも仕上がり品質も決して目を見張るモノではなかった。これでは価格を下げることなどできず、多くのクリーニング店にとってあまり役に立たない機械と受け止められたのだ。しかし当時はワイシャツ以外のシャツ類を仕上げる専用機は全く存在しなかったので、一歩前進である事は間違いなかっただろう。ちなみに最近はこのMF-300Jが売れ始めている。やはりワイシャツが相当減ってきていて、他のシャツ類も積極的に集めないといけない、と考えるようになっている証拠なのだろう。

さて、話しを本題に戻そう。このノンプレスフィニッシャーを本格的に考え始めたのは3年前である。ある日本のお客様グループをアメリカ視察にご案内したときの話だ。オハイオ州クリーブランドにあるクリーニング店を訪問した時の事である。そのクリーニング店の経営者がお店の隣に洗車場を設置していたのだ。しかしその洗車場は日本のモノとは全然違う。日本の機械は指定の場所に車を止めると門型になっている洗車機が前後に動きながら車を洗っていく。所要時間はざっと5〜10分だろうか・・・。と言うことはこの門型洗車機ではおおよそ1時間に最大12台しか洗う事はできないのだ。
一方でアメリカの洗車機はまさにトンネルタイプなのだ。車の左前輪をベルトコンベアのフックにひっかけておき、ギアをニュートラルにしておくと勝手に車を動かしてくれるのだ。そして順々に洗剤をかける場所、クルクル回るブラシのある場所、そして乾燥する場所と移動し、洗車が完了するのだ。この設備はざっと50m以上はあるだろうか、いずれにしても非常に場所をとるのだ。しかし、この設備で洗車をすると処理時間は2分くらいはかかるのだろう。しかし前の車がまだ処理中であるにもかかわらず、次の車が入れるので1分以内に1台は確実に処理できるのだ。日本の生産性とは比較にならないほどの台数をこなすことができる事になる。詳しくはこちらのURLから動画をご覧頂きたい。

私はこの洗車機をみてトンネルタイプを真剣に考えるようになった。やはりコンパクトな機械では生産性が上がらない、ある程度の場所を使わないと量をこなすことはできない、と考えたのだ。もう一つは洗濯物が動かないと生産性は上がらない、ということだ。この二つをキーワードとして開発に入ってみた。

仕様を設定する上でベンチマークになったのはフジ型三点セットのワイシャツ仕上げ機だ。優秀な工場はこの三点セットを使って三人で200枚以上/時間のワイシャツを仕上げる事ができると言われている。私はこの200枚という数字を目標にワイシャツ以外のシャツ類全部を一緒に仕上げられたら素晴らしいだろうな、と思って開発してみた。品質のポイントは二つである。

 1.濡れがけのシャツが完全に乾くかどうか?

 2.ノンプレスフィニッシャーから出てきた時にシワがしっかり伸びているかどうか?

この品質条件を達成しながら時間200枚以上のシャツを仕上げる事ができたら全てのシャツ類をワイシャツのような値段設定で市場開拓する事ができるようになるのだ。

次に「なんでこんな設定が必要なのか?」と言うことだ。ユニクロの宣伝で桑田佳祐がジーンズを履きながら地下鉄で歌いながら闊歩しているシーンがある。詳しくはこちらをご覧頂きたい。

https://youtu.be/GL0b2pEjX3E

私はこういうファッションが今後のビジネスウェアになる可能性が高い、と思っている。今までのようなスーツにワイシャツ、ネクタイの時代はもう終わりを迎えているのだ。一部の高級層はそれまでのウール製の高級ブランドスーツを着る習慣は残るものの、多くのビジネスマンはもはやユニフォームのようなスーツを着なくなる時代になってしまうのだ。そのビジネスマン達を顧客にできていたクリーニング店は今まで通りのスタイルで経営していたら確実に顧客を減らすことになってしまうのだ。この話を読みながら是非自社の今後については考えてもらいたい。

我々のノンプレスフィニッシャーはまだテスト段階である。故に皆さんに詳しくモデルを紹介する事はできない。しかし試作機は完成している。現在、実際に洗い上がった洋服を投入してどのくらい伸びるか?をテストしている。次にこのノンプレスフィニッシャーを紹介するときは満を持して具体的に紹介する事になるだろう。なんとか今年中に発表したいものだ。読者の皆様においては事業再構築補助金の申請をできるように組み立ててみては如何だろうか?

頑張って形にしたいと思う。